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長さ、内径、厚さによる特性
三木 随分色々な種類があることが分かりましたが、では実際の演奏に際してこれらはどういうかたちで違いがあらわれるのでしょうか?
田中 ボーカルについてどういう違いが出て来るかというのを口で言うのは非常に難しいですね。と言うのは、一つ一つキャラクターの違うボーカル、長さの違うボーカルは、それぞれ、それにふさわしいリード、および演奏法というものを要求するわけです。ですから大体のことを言うことは出来ますが、これが絶対であると言う言い方は出来ないわけで、ここは誤解のないようにして頂きたいのです。

 まず、単純に長さの問題から見ますと、例えば全く同じ材質、内径、メッキ、曲がり方、厚さをもっているボーカルで長さだけが違う2本のボーカルを試したとします。この2本を全く同じリードで吹いた場合にどんな結果が出るかと言いますと、長ければ長いものほどピッチが低くなります。逆に短いものほどピッチは高くなります。それに伴って、例えばCCの1番に合わせて作ったリードで2番を吹きますと、あるいは3-4番つまり長いものを吹きますと、リードの抵抗は少なめに感じられます。逆に、これが短くなればなるほどリードの抵抗は大きく感じます。つまり2番に合わせて作ったリードで1番を吹くと抵抗は大きめに感じられます。

 この抵抗の大小を具体的に説明しますと、同一のリードの場合は、ボーカルが長くなるほど高音のコントロールが難しくなり、また低音域の弱音のコントロールは容易になります。ボーカルが短くなるとこの逆になります。以上のことはリードとのコンビネイションの問題ですから、これはむしろリードについての時に説明すべき問題だと言えますね。

 次に内径による違いについて。いわゆるC、CCは、これは皆さん御承知のボーカルで、今あえて解説する必要はないと思いますが、このCに比べて他の3つのボーカルがどういう反応を示すかということを説明します。もちろん、材質、メッキ、長さetc(つまり内径以外のすべての要素)は同じものとします。

 まず、Cの変型であるところのCE。これは先端が細い関係上、ちょっと実際の物理的音量が小さくなることがあります。もちろん音色的には大きく聞こえても、実際のたとえばメーターなどで測った場合の音量は小さくなる可能性があるということがひとつ。第二に、高音のコントロールがやさしくなるということ - 低音はCCに比べてそれほど幅広い音は出ないけれど - 。もちろん以上はCCに合わせて作ったリードでチェックした場合です。これをCEに合わせて作ったリードでCCをチェックすると、逆に重過ぎるという結果が出てくるわけです。
 CEの音色的特徴としては、完全にCE用に調整されたリードでチエックされたものは、CCに比べて柔かい音色になります。

 次にBというのは広いボアですね。それだけ空気が入りやすくなります。言い替えれば、息を取られるボーカルであるということです。と言うことはリードを通過する息の量も多いわけで、高音を吹く時に、かなり小さく(狭く)なったリードの開きからも楽に息が入る、つまりリードを鳴らしやすいということですからC、CEに比べて高音が楽に出ます。しかし決して高音専用に作られたものではありません。このボアはCCとは全く違うタイプのリードを要求します。音色は大変クリアーです。

 Bの変型のBB、これはオーストリー、ウイーンのプレイヤーがヘッケルに注文して作らせたボーカルです。CEとBBは反応が非常に似ています。が、もちろん、CEはBBに比べてC寄りであり、BBはCEに比べてB寄りです。Bよりはソフトな音色です。

 次に厚さ、「D」のついた薄めのボーカルについて。
例えば楽器が全音域にわたって反応があまり良くない時に「D」のボーカル(例えば「CD」)を使うと、スピーキング、つまり反応が良くなることがあります。非常に自由なヴァイブレイションを楽器に伝えるという言い方ができます。またピッチが少々高くなる傾向があります。これはひとつには、管が薄い分だけボーカルが暖まる率が高いということ。また、管自体がノーマルな厚さのものと比べて楽に振動する、というようなことが原因でしょう。音色は明るめになります。

 「V」について一言いますと、これはまず、第3オクターヴのコントロールのためにデザインされたものであるということです。アメリカではこれのついたCD、つまりVCDというのが非常にポピュラーです。確かに普通のCDに比べて第3オクターヴ、つまり高音域の反応が敏感です。実際に内径を測ったわけじゃありませんが、このボーカルは内径のある部分がノーマルなものよりちょっと広いのではないかと思います。これによって高音域の、ちょっと息のコントロール、リードのコントロールのしにくい音でも容易になるのではないかと思っています。オフィシャルな発表がないのでこれはあくまでも想像ですが、ほぼ間違いないでしょう。


材質、メッキによる特性

田中 次は材質について。
ジャーマン・シルバー(洋銀)が一般的ですが、これと比べてブラス、真鍮系のボーカルがどういうものであるかを説明します。まず、洋銀が最もメリハリがはっきリしていますね。真鍮系のボーカルはとても音が暖かく、厚みがあります。

 シルバー(純銀)を使っている人はあまりいません。シルバーは、フォーカスされていない、散らばった音がします。シルバーのボーカルは人によって室内楽に良いと言う人もいますが、実際これを常に使っている人にはこれまでのところ会ったことがありません。コレクションのひとつとして独特な効果を出したい時に(ある部分で)替えるという人はいますが……。非常にボーッとした感じの音になります。

 ゴールド(14K)も結果から言うとシルバーと同じような感じです。シルバーもゴールドも、ボーカル自体を振動させることが非常に難しいので、リードを作るのも非常に難しいですね。

次にメッキ。
メッキをする元の材料は洋銀であると仮定して、同じ長さの同じナンバー(例えば1番のCCで材料が同じ)で、メッキなし、ニッケル・メッキ、銀メッキ、この3つのボーカルがあったとします。この場合、全く同じリードで吹いた場合の反応は、メッキなしのものは一番振動しにくく感じます。固い響き、なまの響きになります。

 ニッケル・メッキは最も評判の良いもので、とてもクリアーな音がします。と言って、メッキのないものほど音のエッジ、カドが強くありません。芯のある(コア)輪郭のはっきりとした音がします。

 次に銀メッキ。これはニッケルに比べて銀の要素が強く出てきます。輪郭がニッケルほどははっきりしません。そのかわりに柔らか味が増します。リードの反応から言えば重く感じます。

 以上のメッキに加えて、金メッキ、プラチナ・メッキ、ロデューム・メッキがあるわけです。これを簡単に説明すれば、金メッキ、プラチナ・メッキというのは銀メッキの性格をさらに発展させたもので、銀メッキよりもっと輪郭がはっきりしなくなるし、純銀、純金のボーカルに近くなります。
 ロデューム・メッキというのは、非常に固い金属のメッキです。ボーカルの振動からいくと、よほどリードとのヴァイブレイションが合わないと固い音になります。リードを作るのがとても難しいんです。
 一般的にはメッキなし、ニッケル・メッキ、銀メッキの3種ですね。